帰る旅

2021-2-21

最近、旅のことをやたらと思う。

この1年、移動の自由が規制されたことで「旅」が自分の中のリアルから消えているからかもしれない。
自分のこれまでの人生のリアルは間違いなく「旅」であり、「旅」の生き方が自分の生き方だったと思う。
毎日が同じ繰り返しの日常ではなく、何が起こるかわからない日々の非日常な「旅」の道程。

自分にとってのリアルと感じる旅の始まりは、そう、高校生のとき自転車で四国一周を皮切りに、九州、本州と自転車で旅をしたときからだ。
気の向くままペダルを漕ぎ、気に入った場所があれば野宿をしたり、ユースなど安宿を探し、その日の気分で行き先を決める。
お金が無くなれば、その日泊まった宿からバイトを紹介してもらい、お金を得ればまた旅を続ける。

ミュージシャンになって、河島英五さんとの全国ツアーも間違いなく「旅」だった。
毎日知らない町のステージで歌い、仲間と出会い、風景と出会った。
ステージ前に必ず町を探索していた「どさまわり」の旅だった。
ミュージシャンとしての十代のときに、プロ意識というものを河島英五さんに見せつけられ、そしてたたき込まれた旅でもあった。
考えてみれば10代のときに日本47都道府県、すべての地域を回っていた。

20代からは海外へもぶらりと旅に出ていった。
当時はそうは思っていなかったのだが、旅のスタイルはバックパッカーそのものだった。
つまりは、宿も取らず、行き先はその日に決めるという、自転車で旅をしていたときの旅のスタイルと、海外に出ても同じだった。

気に入った場所と出会うと、そこに何日間か滞在し、その空気の中で息をする。
そしてレンタルバイクを借りて、その土地を探索する。
ガイドブックになど載ってない美しい海を見つけたり、森の中で滝を発見したり、野生動物との出会ったりなど、予想もつかない日々に包まれるのが自分にとっての旅だった。
そう、旅は冒険だった。
今でも仕事以外で、プライベートで海外に行くときは同じスタイルを通している。

よく人に、ホテルを取らないで不安にならないのかと聞かれる。
そのときボクは例えとして、山に足で登る頂上と、とロープーウェイでの頂上では見える景色、達成感、昂揚などぜんぜん違うという話をする。
それと同じで、知らない町で「チープホテル!チープホテル!」と安宿を探して何件もまわり、そしてベッドにたどり着き荷物を下ろしたときに感じる昂揚感と達成感。
「あぁ、今日も生きている」というとてつもない生命の感動がそこにある。
たった宿を取らないだけで、まったく違う生命のときめきが味わえるのだ。
ホテルを事前にとってしまったら、そんな達成感と喜びなくつまらないと思うのだが…
つまり「楽(らく)」するというのは、安心と引き替えに達成感を捨ててしまっていることになる。

きっと大半の人は、旅ではなく、「旅行」なのだと思う。
パック旅行などまさに、安心というテンプレートの上で、みんなと同じ風景を見ているという安心感を感動と思って写真に収まるだけ。
それをSNSに上げて、「いいね」をもらって満足する。

きっとそういう人たちは、非日常へのあこがれはある。
だが、安心の延長上の上での日常の旅行で、非日常を演出した時間を過ごす。

中学生のころ、高見順という詩人の文庫本を買った。
「死の淵より」というタイトルが気になり買った文庫本である。
ページを開くと「帰る旅」という詩が目に飛び込んできた。

「帰る旅 」

帰れるから
旅は楽しいのであり
旅の寂しさを楽しめるのも
わが家にいつかは戻れるからである
だから駅前のしょっからいラーメンがうまかったり
どこにもあるコケシの店をのぞいて
おみやげを探したりする

この旅は
自然へ帰る旅である
帰るところのある旅だから
楽しくなくてはならないのだ
もうじき土に戻れるのだ

おみやげを買わなくていいか
埴輪や明器のような副葬品を

大地へ帰る死を悲しんではいけない
肉体とともに精神も
わが家へ帰れるのである
ともすれば悲しみがちだった精神も
おだやかに地下で眠れるのである
ときにセミの幼虫に眠りを破られても
地上のそのはかない生命を思えば許せるのである

古人は人生をうたかたのごとしと行った
川を行く舟がえがくみなわを
人生と見た昔の歌人もいた
はかなさを彼らは悲しみながら
口に出して言う以上にそれを楽しんだに違いない
私もこういう詩をかいて
はかない旅を楽しみたいのである

高見順「死の淵より」

本来はだれもが旅人のはずだと思っている。
生きているものは必ず死ぬ。
死ぬということは、人は自然の中で生まれ、生きて、そして自然へ帰っていく旅をしている。
その旅でどこまで行くことができるか。
それは、生きている中でどれだけの経験ができるかということだ。
時間は命。

経験は出会いとなる。
どれだけ多くの人に出会えるか。
どれだけ多くの風景と出会えるか。
どれだけ多くの感動と出会えるか…

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これからもぼくは旅人で生きていきたい。

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