シンギュラリティの時代

シンギュラリティとは、2005年にAI研究の第一人者として知られるレイ・カーツワイル氏が、シンギュラリティ論を発表し、そして「2045年にシンギュラリティが訪れる」と言ったことで注目された言葉である。

このカーツワイル氏、1990年にインターネットの誕生に検索エンジンが生まれることや、コンピューターが2000年までにチェスの王者をやぶるなど、理論に基づいて未来を予測してきた未来学者でもある。

日本でも2016年に孫正義氏が〝シンギュラリティ〟という言葉を使ったことから、日本でも〝シンギュラリティ〟という言葉が飛び交うようになり、ぼく自身もそのころから興味を持ち始めた。

〝シンギュラリティ〟日本語では「技術的特異点」と訳されている。
AIなどの技術が、直線的に向上するわけではなく、指数関数的に向上することで、仕事の多くが代替可能になるということだ。

だが、ここのところChatGPT-4が発表されてから、いったい何が起こっているのかと思うほど、あらゆる分野でAIを使ってのコンテンツが生まれてきている。

「2045年にシンギュラリティが訪れる」ではなく、これはもうすでに〝シンギュラリティ〟に入ったのではないだろうか。

前回、AIをどう、道具として使うかということを書いたが、まさに「自分が何をやろうとしているか、そのためにAIをどう使うのか」という思考がなければ、AIは単なる便利な検索エンジンでしかない。

現在ぼくのメタバースの共同研究では、3DモデリングをAIに命令して作ろうと研究しているのだが、きっと1年もすれば、テキストだけで自分が想像する3Dモデリングがだれにでも可能になると思っている。

またAIは大学で教えることで出てきた問題点も今年に入ってからどんどん解決してくれている。

たとえば、「伝える」において、情報源は「視覚情報」「聴覚情報」「言語情報」の3つによって伝えられる。
その割合は、視覚情報 55%、聴覚情報 38%、言語情報 7%になる。
つまり、93%が視覚と聴覚によって人は認識している。

つまりは、「伝える」において一番だれもが認識できる形は動画ということだ。
実際、10年前は、広告業界において動画は20%ほどだったが、今は80%以上が動画となっている。

なぜかと言うと、答えは簡単で、だれもが持っているスマートフォンが4Gとなり、動画をストレスなくだれもが見られるようになったからだ。

2020年のサイバーエージェントの市場調査においても、動画マーケティングに取り組んでいる企業担当者の約85%が「動画の重要性が増している」と回答している。

ぼくのゼミの学生には、1年前から課題制作の中で動画を作らせている。
premiere、Aftereffect、blender、unityを中心としたソフトを使い、動画研究に取り組んでいるわけだが、ひとつ問題があった。

動画に欠かせない音楽である。
ゼミ生の中には作曲できる学生もいるのだが、ほとんどの学生が音楽を作ることができない。
今年の春までは、YouTubeなどのフリーの楽曲を使わせていたのだが、コンテンツ化するにあたってフリーとはいえ、他の人が作った曲ではいろいろ問題があると感じていた。

ChatGPTから始まったAIを研究する中で、AIで音楽を作ってみようと、ここ1ヶ月ほど取り組んできた。

これがとにかく面白い。
AIに、たとえば「センチメンタル」に「ゆったりと」「アコースティック」になど、キーワードを入れ、楽器、時間やキーも指定するといくつもの曲を一瞬にプレゼンしてくる。
その中から、自分のイメージに合った曲を見つけると、それをカスタマイズし、ドラムとベースを強調したり、ストリングスを加えたり、時には自分でギターを弾いて加えたりと、曲を自分のイメージにそこから変えていく。

ぼくは10代、20代のころプロとしてミュージシャンもやっていたことで、現在もクライアントから頼まれた動画の曲もシンセなどで作曲していたのだが、AIを使うと、1週間かかっていた作業が、6~7時間でできてしまう。

もちろんAIが作ってきた曲をそのまま使用すると、1分かからず曲ができてしまうのだが、音楽を作ってきた身としては、そこから曲を膨らませ、イメージを形したくなってくる。
AI作曲についていろいろ調べたが、ぼくがやっている方法だと著作権の問題もある程度クリアーもできている。

学生に対してAIを使うことによっての可能性として、ぼくとは逆のパターンだが、こうやってAIで音楽を作ると、楽器が弾けなかったり、音楽ソフトを使えなかったものも、自分でもイメージを膨らましたくなり、目的を持って楽器を覚えたり、音楽ソフトを使ってシンセを覚えるなど、自分の可能性がAIによってどんどん広がっていくはずだ。

つまり今まで「できなかった」ことが、AIによってできることが、それも一人でできることが一気に増えている。
それは仕事をAIによって奪われるのではなく、AIによって〝自分の可能性が広がっていく〟ということだ。

シンギュラリティの時代をどう生きるか。
その一つとして道具としてAIを使うことだとぼくは思っている。

今回、ここに載せている「生き方に窮屈を感じたら」の動画、音楽はAIを使って曲を創ってみました。