研究室で過ぎた夏

2017年8月30日

あぁ、夏が終わろうとしている。
十代のころから、旅に出なかった「夏」ははじめてかもしれない。

ほとんどの時間を大学の研究室を中心に、今抱えている20は超えるプロジェクトや、学生と進めている仕事と制作。
帝京大学理工学部との共同で、マンガとプログラミングを合わせた「デジタルマンガ制作演習」という実技の授業を、帝京大学の佐々木先生と立ちあげこの夏休みに行ってきた。

こういっては何だが、大学が夏休みに入ってからが、大学で大学としての「研究」の日々が流れている。
だいたい大学は学校ではなく研究機関なわけだから、実技、制作などは「研究」でなければならないと思っている。
だが大学の現状は、どう見ても専門学校と変わらないことをやっているし、マンガの大学で研究することが、既存の雑誌にデビューしてプロのマンガ家になるためなど、やはりどう考えてもおかしなことだ。

だいたい、既存の雑誌でプロになりたいのなら、大学など来る必要などどういった意味があるのだろうか?
そもそもマンガ家になりたいから大学へ来るということ事態、大学の意味を考えて入学してきているのだろうか?

いつも言っていることなのだが、入学金と授業料に払うお金があれば、2年間、世界中をバックパッカーとして旅をすることができる。
今の時代ならば、タブレットPCを持って、世界中を旅して、その旅先でその地で経験したことをマンガに描き、SNSでも使って世界中に配信していけば、それだけで作家として希有な存在になれるし、マンガ家としての他の作家が持てない「武器」だって持てるというものだ。

それに、2年間世界をバックパッカーすれば、2~3度は死を覚悟する目にも遭うだろうから、人間的にも間違いなく強くなれるということだ。

そう、2年間バックパッカーで世界を歩けば、大学へ行くより、たとえマンガ家になれなかったとしても、自分のやりたいことで生きて行ける強いチカラを身につけられるということだ。

最近読んだ本に、ニューヨーク州立大学バッファロー校の心理学者マーク・D・シーリーの研究のことが書いてあった。

「多くの人は人生に逆境などない方がいいと思っているでしょうが、あまり逆境を経験したことのない人たちは、ある程度つらい経験のあるひとたちに比べて、幸福感が低く、健康状態が劣っていました。そればかりか、過去に逆境を経験すた数がゼロのひとたちは、逆境を経験した数が平均的だったひとたちに比べて、人生に対する満足度がはるかに低かったのです」

考えてみればあたりまえのことである。
簡単に手に入るものを手に入れたとしても、まず達成感などありえない。
だが、いくつもの壁を、日々、何度も挫折しながら、それでも藻掻き、必死に限界までがんばり、そして手に入れたものは、体中から叫びが上がるほどの達成感があるはずだ。
それが人生にたいする満足度というののだ。

スポーツを見ればわかりやすいかもしれない。
高校野球で全国制覇した、スタンドで応援する部員も含め、選手たちの達成感は、喜びは、満足度はどれほどのものだと思えるし、オリンピックの金メダル。ボクシングなどで世界チャンピオンになった瞬間の達成感も同じだ。

何のために生きてきたか、生きてきたことの幸福感は、まさに逆境を乗り越えてきたからこそ生まれる幸福感だと思う。

今、大学を変えたいと思っている。
つまりはつまらないから変えたいと思っているというわけだ。

イノベーションの起こせない大学などまったくつまらない。
つまりは「研究」ではなく「勉強」を教えているしかない、高校の延長の「学校」でしかない今の大学。みんなこんな大学でいいと思っているのだろうか。

ふたつほど前のこのブログに、今の時代に大学はどうあるべきかといった考えを書いてあるので、興味のある人は読んでもらえれば、ぼくの今からの大学に対する考えがわかると思う。

今、このブログを大学の研究室で書いているのだが、まず、他の研究室の先生たちは夏休みで大学に来ることがないので、大学すべてが実に静かだ。
実に仕事が捗る。
だがそれでいいのだろうか…

ぼくの研究室だけは、企業の人たち、行政のひとたち、メディアの人たちなどなど、今進めているプロジェクトを中心に、毎日いろんな人たちが尋ねてきて打ち合わせをやっている。
イノベーションを起こすための打ち合わせで、自分の研究室だけが頻繁に人の出入りが激しい場所となっている。

イノベーションを起こすということは絵空事ではないので、もちろんお金のことを含めて毎日が逆境ではあるのだが、ひとつひとつ大学の研究の中でコンテンツを生み出すことができているのは、逆境だからこそ、ある意味、このだれもいない大学で一番、満足度の大きい幸せをかんじているのかもしれない。

そう思って、とにかくひとつ、ひとつ形にする。
イノベーションは形にしなければはじまらないのだ。

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