美人投票とイノベーション

2019-8-26

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今年の夏は、まったく休みのないままに終わろうとしている。

昨日まで帝京大学理工学部と文星芸術大学の単位互換の共同授業で、CLIPSTUDIO、Unity、Photoshopを使ってモーション動画の基礎演習の制作授業をやっていた。
今年で4年目だが、夏休みに行っていることもあり、参加する学生はあいかわらず少ない。

これからの時代、マンガはIoTとつながり、AI、VR、ARというテクノロジーの道具によって、無限の可能性を秘めているというのに、既存のマンガという枠から出て、新しい表現を生み出そうとする学生はほとんどいない。
そもそも、既存のマンガを教えてもらうのであれば、YouTubeやセミナーで十分まなべるし、最新のテクニック的なことも大学より間違いなく覚えることができる。
お金だってさしてかからない。

では、大学で何を学ぶのかと言えば、大学は研究機関であり、マンガならマンガのイノベーションを起こすべく作品、コンテンツを生み出す場所だと思っている。
だから「研究」のための学びを求める場所のはずなのだが、いつも言っているように、日本の大学のほとんどは、研究機関ではなく「学校」という、高校の延長で学ぶ機関となっている。
大学で本来の研究し、コンテンツ化しているものとしては、ただため息だ。

 

 

ともあれ、今年から毎月向かっている、中国南京の南広学院での新学期が来週から始まる。
そのあと杭州からもインターネット教育関係で呼ばれているので、中国から日本に帰国するのは、9月16日からの文星芸術大学の後期の授業開始の前日になっている。

まぁ、夏に限らず一年中、「遊びが仕事で、仕事が遊び」。
つまりは毎日がそういうことだ。

 

 

 

そんな日々の中、歳をとるごとに「勉強」がどんどんと面白くなってくる。
最近は「経済」が面白く、本を読みあさっている。

今、世界の経済の中心にいるのは、GAFA(グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェースブック(Facebook)、アマゾン(Amazon))。
中国のBATH(B〈百度(バイドゥ)A〈阿里巴巴集団(アリババ)T〈騰訊(テンセント)H〈華為技術(ファーウェイ)) である。
GAFA、BATHで共通するのは、すべて「情報」のプラットフォーマーである。

 

 

 

世界の経済は「モノ」ではなく「情報」で動いている。
2000年代からは情報が世界の経済を動かしているということだ。

マンガは「情報」だということをみんなわかっているのだろうか。
ただ読みものとしてだけではなく、「伝える」、それも「わかりやすく伝える」ことのできる優れた情報のコンテンツであることを、マンガを描いているものを含め、みんなはちゃんと認識しているのだろうか。
経済から情報としてのマンガというものを考えると、いろいろなものが見えてくる。
それを今、ITは日本より遙かに進んでいる中国でテクノロジーと組み合わせて研究してコンテンツ化を進めている。

最近、ちばてつや先生と経済の話をしているとき、今の経済学最大の影響を与えた、経済学者のケインズの「美人投票」の話になった。
ケインズが金融市場における投資家の行動パターンを表す例え話として有名な話だ。

【ケインズの美人投票】
昔、ロンドンで、一風変わった美人投票が行われた。
それは、投票者が100枚の写真の中から、もっとも容貌の美しい6人を選ぶ。だが、ひとつこういった項目をくわえる。「最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える」というものだ。
つまり、この美人投票は、ただ『自分が美人と思う人』に投票したのでは、賞金をもらうことができない。
『他の人が美人だと思って投票する人』を予想して、投票する必要がある、投票者参加型の美人投票なのだ。
この参加型の美人投票をした場合、自分が美人と思う美人ではなく、『他の参加者が誰を選ぶのかを考えて投票する』こととなる。
各投票者が賞品を獲得するためには、自分が最も美しいと思う写真を選ぶのではなく、他の投票者が美しいと思うであろう写真を選ぶことになるというわけだ。
するとだれも一番と思わなかった3番手、4番手の美人が、一位になるという人間の行動パターンを示したたとえ話である。

ちば先生は「マンガ賞も同じだね」とこの話を笑いながら美人投票の話を聞いていた。
マンガ賞は編集者がまず、候補を選んでくるのだが、まさに『他の参加者が誰を選ぶのかを考えて投票する』と同じような選びとなる。
「自分がいいと思う作品」ではなく、「まわりがいいと思う作品」。つまりは、今までの既存の枠の中での選択になってしまう。

本当に時代を変えるほどの作品は、間違いなく「今までなかった作品」である。
今までなかったということは、「予測ができない」。
マーケティングができない作品だということだ。

だがそれは『他の参加者が誰を選ぶのかを考えて投票する』の考えでは、まず選ばれることはない。

 

 

情報が世界の経済を動かしているとのが今の時代だ。
だが、ぼくたちが手に入れた情報はすでに「過去」だということだ。
そういう意味で、『他の参加者が誰を選ぶのかを考えて投票する』というのは、過去の情報に縛られている生き方になってしまう。

「自分が新しい情報(マンガ)を生み出す」。
大学という場所は、そういった考えを持って研究し、それがコンテンツ化することでイノベーションが生み出されていく。

大学とは本来そういう場所のはずだ。

 

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